前門の虎、後門の狼/前門に虎を拒ぎ後門に狼を進む/虎口を逃れて竜穴に入る

ぜんもんのとら、こうもんのおおかみ

ぜんもんにとらをふせぎこうもんにおおかみをすすむ

ここうをのがれてりゅうけつにいる

【意味】

前の門で虎の侵入を防いでいると、後ろの門から狼が入ってくる。 虎の前からやっと逃げ出せたと思ったら、今度は竜の住む穴に入り込んでいる。

一つの災難を逃れたかと思う間もなく、次の災難にあうこと。

災難や危害が次々と襲ってくること。

【類】

一難去ってまた一難 いちなんさってまたいちなん

【対】

虎口を去りて慈母に帰す ここうをさりてじぼにきす

【参考文献】

成語林』旺文社、『広辞苑』岩波書店、『大漢語林』大修館書店、『四字熟語の辞典』三省堂、ほか。参考文献の全リストはこちら

【猫的解釈】

そ、その「こうもん」ではないと思うヨ・・・ 

【雑学】

出典

『趙弼ちょうひつ』評史ひょうし

竇氏(とうし)除くと雖も(いえども)而(しか)も寺人(=君側に仕える近習)の言、これより盛んなり。諺に曰く、前門に虎を防ぎ後門に狼を進むとは、此を之れ謂うか。

※『成語林-故事ことわざ慣用句』旺文社より引用

トラやオオカミの習性

故事成語には、当然かも知れませんが、、動物学的に見れば誤りが多いようです。

たとえば、トラは長距離を移動できる動物ではありますけれど、「虎は千里行って千里帰る」の諺を実践するのは、さしものトラでもとうてい無理です。たとえその「千里」が古代の周時代の千里=405kmだったとしても。

しかしこの「前門の虎、後門の狼」については、ある意味、動物生態学的に見ても正しいといえるのではないでしょうか。

トラは待ち伏せ型の狩りをします。 一方、オオカミは追跡型の狩りをします。 獲物から見れば、前に待ちかまえるのはトラ、後ろから追いかけるのはオオカミ、という構図と言えるかもしれません。

また、トラは短期決戦型ですが、オオカミは長時間にわたって追いかけます。 前門のトラがあきらめて去った後でも、オオカミは後ろに回り込んでしつこく攻め続けた、なんてことがありえるかも知れませんね。

トラはネコ科、オオカミはイヌ科。 ネコ科とイヌ科の違いについて、カリスマ獣医師・野村潤一郎氏がわかりやすく、こんなふうに説明しています。

「イヌ科とネコ科で同じ大きさの個体が戦えば、ネコ科の圧勝です。ただし、イヌ科のお得意の集団作戦を使って、ライオン対犬百頭なら、犬の圧勝です。食肉目としての構造や形態などを考えると、猫のほうがスーパーデラックス仕様にできていますが、スペックが劣るぶん犬は群れになることでそれを補っているのです。」
(『サルが食いかけでエサを捨てる理由』野村潤一郎著 ちくまプリマー新書 p.38)

虎ノ門

「前門の虎」から連想する地名といえば、東京都港区にある「虎ノ門」。 もとは、江戸城外郭にあった門の名前。 その門は撤去されてもう無いが、地名として残った。

江戸城門に「虎ノ門」はあったけれど、「狼門」は無い。 「前門の虎後門の狼」の諺通りに、もし狼門も作っていたら江戸城は災難続きで大変だったかもしれにゃい?(^^;)

虎ノ門事件

1923年12月27日、摂政宮裕仁が帝国議会の開院式に臨む際、虎ノ門付近で一無政府主義者に狙撃された事件。 犯人は難波大助という青年で、この事件は第二の大逆事件として一世を震撼させ、山本権兵衛内閣は即日引責辞職した。

難波大助は山口県の生まれで父は衆議院議員であったが、バクーニンやクロポトキンの著書を読み、次第に無政府主義者となった。 幸徳事件の真相を知るにおよびテロリストを志した。 当時関東大震災の混乱の中に亀戸事件・甘粕事件・朝鮮人虐殺事件が相次いで起こり、当局の社会主義者に対する弾圧は激しく、彼は遂にその最大の敵であると信じた天皇の暗殺を企てた。 のち絞首刑。
(以上『日本史小辞典』山川出版社より引用。)

「虎門」の意味

「虎門こもん」の意味を「大漢語林」で調べると;

  1. 天使の宮殿には五門、諸侯には三門あり、その最も奥にある門の名。 門外に虎を描き、勇猛さを示す。路門。
  2. 大学。

【参考文献】
●『日本史小辞典 』 坂本太郎監修 山川出版社

【文例】

曲亭馬琴(1767-1848年)『南総里見八犬伝

(前略)ことに紛れて疑はず。その宵きりきのふまで、わが一身の進退に、他事を見かへるいとまなければ、事つひにここに及べり。唯(ただ)前門に虎をふせぎて、後門より狼を、進めらるるをしらざりしは、われながら愚かなり。(後略)

第三輯 巻之五 第三十回 ISBN:9784003022429 page178
猫

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