TNR、TNR+M
ティーエヌアール
TNRとは、Trap+Neuter+Return(又はRelease)の頭文字をとったもの。
- Trap=トラップ。猫を捕獲すること。
- Neuter=ニューター。その猫に去勢手術・避妊手術を施すこと。
- Return(Release)=リターン(リリース)。その猫がいた生息地に戻す(放す)こと。
TNR+MはそれにManagementを加えたものです。
- Management=マネジメント。その後の猫の体調その他を適切に管理をすること。
さくら猫=TNR済みの目印
TNRされた猫は、目印として、耳の先端に切り込みをいれることが一般化してきました。カットの形としてはV字カットのほか、U字カット・水平カットされることもあります。カットする耳は、男の子は右の耳、女の子は左の耳が一般的です。
V字カットされた耳は桜の花びらに形が似ていることから「さくら猫/さくら耳」と呼ばれます。
耳カットは、去勢・避妊手術をする時に、全身麻酔が効いている間に行われますので、切られる痛みはありません。また止血等の後処置も獣医師によってきちんと施されますから、その後の出血等もほとんどなく、猫の体にかかる負担は少ないと考えて良いでしょう。それよりも猫にとっては、耳カットという目印がないために、手術のために再捕獲+全身麻酔をかけられる事の方が身体的・精神的負担は大きいと考えられます。
たとえば。
もしその地域にこの写真のようなキジトラきょうだいが5ニャン、さらにそのお母さん猫もお父さん猫も似たようなキジトラだったばあい。捕獲できた子から1ニャン、2ニャンとバラバラに去勢・避妊手術をすることになりますが、もし耳カットという目印がなければ、大変まぎらわしいことになります。全身麻酔は体に負担がかかります。また手術が上手な獣医師ほど手術痕も小さいですから、女の子の場合は最悪2回も開腹されてしまうことにだってなりかねません。
「地域ねこ活動」とTNR
地域猫活動とは、飼い主がいない猫(野良猫等)も、「その地域で暮らす貴重な命」として、地域住民の理解と協力のもと、猫と人間が共生できるようにすることです。
- 餌やり・糞尿の掃除などのルールを決めて地域住民で行う。
- 去勢避妊手術を積極的に施して猫が増えないようにする。
- 一代限りの命をやさしく見守りながら、将来的には「飼い主のいない猫(野良猫)ゼロ」の社会を目指す。
地域により、野良猫の去勢避妊手術に対し、助成金制度が設けられていることがあります。また手術代補助を行っている団体もあります。資金的に厳しい場合は、そのような制度の利用も検討してください。
TNRの目的
TNRは、その猫の命を1代限りのものとし、地球の仲間として大切に見守るために行われるものです。「地域ねこ活動」の一環としておこなわれています。
1.殺されるため、死ぬためだけに生まれる命をなくす
保健所等に収容される猫のうち、野良猫の子猫は約59%と過半数を占めます。行政により殺処分される猫のうち、約63%が幼齢個体です(環境省、令和3年度。ページ下統計資料参照)。
たとえ保健所行きを逃れられたとしても、野良猫の生活は過酷であるため、産まれた子猫の多くは死んでしまいます。それも栄養不足・飢え・病気・寒さなど、不幸な死に方がほとんどです。
2.飼い主のいない猫の数を抑制する
猫は交尾排卵する動物であるため、交尾をすれば100%に近い確率で妊娠し、年1~3回出産可能、一度に3~6頭ほどの子猫を産みます。ねずみ算ならぬ猫算で増えてしまう可能性があるのです。
去勢避妊手術をすることで、野良猫の増加を抑制することができます。
3.猫に関する苦情を減らす
庭に糞尿された、ゴミ箱が荒らされた、鳴き声がうるさい、車に足跡を付けられた、等々。外猫・野良猫が増えれば苦情も増えます。中には、猫が嫌いで存在そのものがイヤ、という人もいます。
4.猫たちの怪我や病気を防ぐ
猫たちの性行動が抑制されることで、猫同士の喧嘩による怪我や、猫エイズ・猫白血病など感染症の拡散が抑えられます。
5.生態系の保護
猫が増えすぎると、捕食される小鳥や小動物も増え、生態系が乱される恐れがあります。とくに島など制限された地域に住む小動物は大きな影響を受ける可能性があります。
TNRのしかた
(1)Trap=捕獲
猫が暴れても大丈夫なように、しっかりしたキャリーにいれましょう。可能であれば洗濯ネットにいれてからキャリーに入れればさらに安心です。
人馴れしていない野良猫の場合、捕獲機を使うことがあります。そのときは猫が入るまで捕獲機のそばから離れないようにしましょう。連絡先や目的を書いたメモを張って置けばさらに安心です。猫が捕獲機に入ったら、布等で全体を包むと猫も落ち着きやすくなります。
なお、捕獲機は必ず踏板式のを使うようにしてください。鍵フックで餌をつるすタイプは、猫が驚いて暴れた時に怪我をする可能性があり危険です。
(2)Neuter=去勢避妊手術
手術をしたら、耳にV字カットを入れてもらうことを忘れずに。男の子は右の耳、女の子は左の耳です。
(3)Return(Release)=元の場所に戻す
暮らしなれた元の場所に戻してあげます。ただし、それが野良猫が生活する上で安全な場所であることが前提条件であることは言うまでもありません。
(4)Management=手術後の管理
戻したあとも、術後観察は怠らないように、猫さんを優しく見守ってあげてください。体調が悪そうだったり、万が一手術痕が開いてしまったりした場合は、速やかに再捕獲して適切な治療を受けさせてあげてください。
また、餌やり後の食べ残しは放置せず、きれいに片づけましょう。糞尿も可能な限り取り除いて掃除しましょう。
去勢・避妊手術が猫たちに与える影響
去勢手術のメリット・デメリット他、不妊手術が猫たちに与える影響について。
去勢手術のメリット
- 望まない繁殖の防止
一番の目的です。 - 縄張り意識や闘争心が抑えられることで怪我や感染症のリスクが減る
動物病院に通う習慣のない野良猫たちにとって良いことです。 - 尿スプレー等マーキングが無くなったり、大幅に減る
人間にとって、これこそ最も有難いメリットかも? - ストレスが減り性格も穏やかになる
特に猫好きなお子さんをお持ちの保護者にとってこのメリットは見逃せませんよね。子どもとは猫を触りたがるものですから。
- 雌猫のまわりに集まらなくなる
発情期のまわりに雄猫が集まると目立ちます。猫が嫌いな人にとっては、集まっているというだけで「目障りだ!」と騒ぐ理由になります。
避妊手術のメリット
- 望まない妊娠の回避
これが第一目的。 - 卵胞嚢腫や子宮蓄膿症などの病気を防ぐ
取ってしまうのですから💦 - 乳腺腫瘍(乳癌)の発生リスクが下がる
完全防止とはいきませんが、リスクは有意義に下がります。 - 発情期のうるさい鳴き声がなくなり、雄猫も集まらなくなる
人間にとっては、これが一番のメリットでしょうか。
去勢・避妊手術のデメリット
- 繁殖できなくなる
でも、それこそが目的なので。 - 体重が増えやすくなる傾向がある(特に雄)
しかし飼い猫と違って野良猫生活は厳しく、太るどころではない猫がほとんど。 - 麻酔のリスク
最大かつ唯一のデメリット。なので耳カットが重要となります。
未手術猫ばかりモテて、結局、妊娠出産は減らないのでは?
一部の猫しか不妊手術できていない状態では、繁殖力のある猫達ばかりが集まって、結局産んでしまうのではないか、という疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
が、大丈夫です。猫たちは、相手が手術済みかどうかが区別できないようです。
雄ネコは、避妊手術をした雌ネコと、繁殖能力のある若い雌ネコを区別できないように見える。(中略)避妊手術をした雌ネコと、していない雌ネコを発情期以外に区別するのはむずかしいのかもしれない。
ジョン・ブラッドショー『猫的感覚』 ハヤカワノンフィクション文庫 ISBN:9784150504991 page 260
つまり、健康状態等を見ながら、順次TNRしていくだけでも、効果は期待できるということです。できる範囲でかまわないので、少しずつでも根気強くTNRを続けることが重要になります。
野良猫がいなくなって困るのは、野良猫の写真で金儲けするフォトグラファーだけです
もしそのフォトブラファーが毎日毎晩、雨の日も雪の日も、野良猫たちを地域猫として責任を持ってお世話している人であれば、私だって文句はいいません。
それに、そういう方の撮った写真は見ればわかります。金儲け主義の写真とは全然違いますから。
残念ながら猫フォトグラファーの多くは、TNRも毎日の餌やりもトイレ掃除もせず、それらの費用も持たず、猫嫌いな地域住民との交渉もせず、ただ無料モデルの野良猫たちの写真を勝手に撮って売って金儲けをしているだけです。彼らの言い訳は「野良猫って、街の中の野生動物なんですよ~」呆れます。猫フォトグラファーとは、イエネコ種の外見がどれほどヤマネコに似ていても肝心の脳の中身が大きく変えられてしまっていることを知らないような、ノータリンの集まりなのでしょうか。それとも知りながらあえて無視しているのでしょうか。
どれほど猫好きを語っていようと、野良猫を美化している時点で、その人は「金>>名誉>>>>>猫」です。
野良猫を美化したような写真集は買わないでください。それは虚構です。
野良猫を美化したような写真展は観に行かないでください。それは虚構です。
野良猫の生活の厳しさ・辛さを正しく伝えている写真集・写真展だけにお金を使ってください。
統計資料(環境省、動物愛護管理行政事務提要より)
対象期間:令和3年(2021年)4月1日~令和4年(2022年)3月31日
猫の引き取り数
飼い主から | 成熟個体 | 6,777 (19.5%) |
幼齢の個体 | 2,825 (8.1%) | |
小計 | 9,602 (27.6%) | |
所有者不明 | 成熟個体 | 4,511 (13.0%) |
幼齢の個体 | 20,692 (59.5%) | |
小計 | 25,203 (72.4%) | |
合計 | 飼い主から+所有者不明 | 34,805 (100%) |
猫の処分数
引き取り合計 | 総数 | 34,805 (100%) |
返還 | 返還数 | 224 (0.6%) |
うち、幼齢個体 | 31 (0.1%) | |
譲渡 | 譲渡数 | 22,888 (65.8%) |
うち、幼齢個体 | 15,476 (44.5%) | |
(譲渡数の幼齢個体比) | (67.6%) | |
殺処分数〔注〕 | (1) | 4,834 (13.9%) |
(2) | 3,822 (11.0%) | |
(3) | 3,062 (8.8%) | |
合計 | 11,718 (33.7%) | |
殺処分数のうち幼齢個体 | 7,407 (21.3%) | |
(殺処分数の幼齢個体比) | (63.2%) |
〔注〕殺処分数の内訳
(1)譲渡することが適切でない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)
・負傷や病気等による苦痛が著しく、治療の継続又は保管が困難と思われる猫
・動物衛生又は公衆衛生上問題となる感染症等に罹患し、他の動物又は人への蔓延等を防止するために殺処分が必要とされた猫
・収容中及び譲渡後に人や他の動物に危害を及ぼす恐れが高い(噛むなど)とされた猫
(2)上記(1)以外の処分(譲渡先の確保や適切な飼養管理が困難)
・適切な譲渡先が見つからなかった猫
・施設の収容可能頭数等の物理的制限により飼養が困難な猫
(3)引き取り後の死亡
・病気・老齢・幼齢その他の理由で、収容を行った後に、その運搬、飼養管理中に殺処分以外の原因で死亡した猫