虎狼より漏るが恐ろし/虎狼より漏るが怖い
とらおおかみよりもるがおそろし
とらおおかみよりもるがこわい
【意味】
どこにいるか分からない虎や狼よりも、自分が今住んでいる家の雨漏りの方が直接被害を受けるぶんだけ恐ろしい。
または、虎や狼より、隠していることが漏れて広まってしまうことや、自分でうっかり口を滑らせて秘密を漏らしてしまうことのほうが恐ろしい、というたとえ。
【参考文献】
『成語林』旺文社、『広辞苑』岩波書店、『大漢語林』大修館書店、『四字熟語の辞典』三省堂、ほか。参考文献の全リストはこちら
【猫的解釈】
トラやオオカミは、今の日本にはいにゃいから、かんけい無いにゃ。それより、雨漏りがするような、ぼろい空き家は、ニンゲンがはいってこないから、野良猫には恐ろしく住みやすい良い場所って意味にゃ。
【雑学】
古屋の漏り
むかし雨の降る晩に、爺と婆とが睡ることが出来ないで、二人で話をしていました。
虎狼よりも怖いのは古屋の漏りだと言っておりました。
それを表を通っていた虎狼という獣が立ち聞きして、それではこの世の中には、おれよりもまだ恐ろしいもりというのがあると見える。これは油断がならぬと思っていると、ちょうどこの家に入ろうとした馬盗人が、馬かと思って虎狼の背中に乗りました。
これはたまらぬ古屋のもりにつかまえられたと、虎狼は一散に飛んで走りましたので、馬盗人はふるい落とされて、路傍の空井戸の中に堕ちました。
そこへ猿が遣って来て何しているかと尋ねますと、今この穴の中に古屋のもりという化け物が隠れたと、虎狼が答えました。
そんな化け物はいないだろう。おれが検査してやろうと言って、出過ぎ者の猿は、尻尾を空井戸の中へさし込んで探りました。
穴の底の馬盗人がそれをしっかりと掴みました。
猿もびっくりして強く尻尾を引こうとすると、根元からぷつりと切れてしまいました。
猿の尻尾の短くなったのは、又この時からだという説もあります。
(肥後阿蘇郡)
以上は、柳田国男 『日本の昔話』 新潮文庫p163からの引用である。
上では「虎狼」という名の獣になっているが、言い伝えにより、虎だったり狼だったりもする。
また、ここでは馬泥棒が間違えて背中にまたがったとされているが、他のよく聞くパターンでは、梁の上に隠れていた馬泥棒が「そんな恐ろしい化け物が来たら大変だ」と 慌てて逃げだそうとして誤って虎狼の上に落下し、虎狼がびっくりして・・・という展開になっている。
いずれにせよ「古屋の漏り」の意味を知らない虎や狼や馬泥棒が滑稽な民話だ。
はじめてこの民話を聞いたとき、なぜ雨漏りがそんなに怖いのか、都会育ちの私には全然ぴんと来なかった。 しかし、田舎に引っ越した今なら、少し分かるような気がする。
日本は湿気の多い国だ。 田舎の古民家は、油断するとたちまち湿気だらけのカビだらけ。 その威力は、都会に住んでいた頃は全く想像できなかったくらいに酷い。
昔は冷蔵庫も密閉容器も無かったのだから、雨漏りしたら目も当てられなかっただろう。 もし備蓄の食糧が腐ってしまったら、一家で飢えなければならない。
その一方、昔のかやぶき屋根は、修理するにも吹き替えるにも村人総出の大仕事だった。 最近のスレート屋根のように、職人さんがちょいちょいと修繕なんてわけにはいかなかったのだ。
何もかもカビらせ腐らせる雨漏りは、確かに怖い!
【参考文献】
● 『日本の昔話』 柳田国男 新潮文庫