皿嘗めた猫が科を負う

さらなめたねこがとがをおう

【意味】

皿にあった魚を食べた猫は逃げ、あとから来て皿を嘗めた猫がつかまって罰を受けるということから、 犯罪で大物が捕まらずに、小物ばかりが捕まって罰を受けることのたとえ。

【類】

米食った犬が叩かれずに糠食った犬が叩かれる こめくったいぬがたたかれずにぬかくったいぬがたたかれる

鉤を盗む者は誅せられ国を盗む者は諸侯となる かぎをぬすむものはちゅうせられくにをぬすむものはしょこうとなる

ひとつの皿から食べる猫達

【参考文献】

成語林』旺文社、『広辞苑』岩波書店、『大漢語林』大修館書店、『四字熟語の辞典』三省堂、ほか。参考文献の全リストはこちら

【猫的解釈】

これ、正しくは「皿嘗めた猫がおかわりを貰う」じゃないの?

うちではそうだよ~♪

ひとつの皿から食べる猫達

【雑学】

昔の猫の皿はアワビ貝

昔、日本では、猫用食器といえばアワビ貝だった。

今の感覚ではアワビ貝が食器なんて
「おしゃれ~♪」
って感じだけど、昔のアワビ貝は今で云えば 100均の皿、もしくはそれ以下くらいの感覚だったらしい。

夏目漱石『吾輩は猫である』の、 名無し猫君もアワビ貝を使っていた。

吾輩は主人と違って、元来が早起の方だから、この時既に空腹になって参った。とうていうちのものさえ膳に向かわぬさきから、猫の身分を以て朝飯に有りつける訳のものではないが、そこが猫の浅ましさで、もしや烟の立った汁の香が鮑貝(あわびがい)の中から、うまそうに立ち上ってはおりはすまいかと思うと、じっとしていられなくなった。

(中略)

吾輩は堪らなくなって台所へ這出した。先ずへっついの影にある鮑貝の中を覗いてみると案に違わず、夕べ舐め尽くしたまま、闃然(げきぜん)として、怪しき光が引き窓を洩る初秋の日影に輝いている。

かわいそうに、これほど有名な猫さんが、食事はいつも人間の後? うちは常に、人間の食事の前に猫が食事と決まっている。 その方が猫が人間の食卓に興味を持たないから、しつけ上便利でもある。

吾輩君の食器は本物のアワビ貝だったけど、 猫も「天璋院様(篤姫)の愛猫」となると、待遇が違ってくる。 ご存じ、第13代将軍徳川家定の継室(後妻)となった女性である。

愛猫サト姫の食事風景を、猫付きの御中﨟(おちゅうろう=お側の女中)が 書いたものが残っている。

旦那様へお膳を上げる時に、猫の膳も出ます。瀬戸物で鮑貝の形に拵えたのを、黒塗りの膳へ乗せ、お下を戴いて食べます。 (『大江戸の姫さま』 p32)

「お下」とは、「お下がり」の食べ物のこと。 これを書いた御中﨟が食べていたものも同じ「お下」。 ところで猫付きの御中﨟は三人もいたらしい。 さすがは将軍家の猫だ。

さて、吾輩君は、最後は死ぬ。 が、それを残念に思う人々が、吾輩君を生き返らせては、 続編を書いている。

それら続編のひとつ 『贋作吾輩は猫である』 では、 吾輩君の食器はアワビ貝から昇格している。

台所戸棚の奥をがたがた云わせて、お神さんは藍模様の大きな皿を取り出した。なるほど、縁が欠けている。その上に麦の沢山混じった御飯を盛り、上から鍋の底に残った汁を掛け、紙袋に手を突っ込んで煮干しを五六匹掴み出してその上に振りかけた。吾輩は咽喉が鳴り涎が垂れる様であったが、何しろ初めての家であり、ここが我慢の仕所と観念してじっとお神さんの手許を見つめている。

(中略)

「そうそう、まだあれが有ったっけ」と口の中で云いながら、お神さんはかますの干物の頭を二つ取り出して、藍模様のお皿の御飯に載せてくれた。「さあさあお上がり、お待ち遠さま」と云った。

(中略)

吾輩にその御馳走を当てがっておいて、お神さんは茶の間へ行った。

アワビ貝は藍模様の大きな皿になり、また、 猫さんの食事の用意をしてからお神さんは自分の食事に向かっている。 漱石の頃から比べれば、吾輩君、相当な出世だが、 この猫の業績を考えれば当然だろう。

ところで著者は内田百閒、漱石の弟子のひとりだった。

【参考文献】

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