たくらだ猫の隣歩き

たくらだねこのとなりありき

【意味】

愚かな猫が、隣近所を遊び回りながら鼠を捕まえるのに、自分の家の鼠はさっぱり捕らないということ。

よその家の事ばかりして自分の家の用をしないことのたとえ。

【類】

不精者の隣働き ぶしょうもののとなりばたらき

猫

【参考文献】

成語林』旺文社、『広辞苑』岩波書店、『大漢語林』大修館書店、『四字熟語の辞典』三省堂、ほか。参考文献の全リストはこちら

【猫的解釈】

同じ屋根の下で暮らしているなら、家族でしょ?家族なら、ネズミだって傷つけたりしない、優しい猫って意味にゃ。

それにたいし、隣のジジイは嫌いニャン。だから隣のネズミも小憎らしくみえて追いかけちゃうニャンよ。

【雑学】

“たくらだ”とは

“たくらだ”という言葉、この諺を見るまで知らなかった。 広辞苑で調べてみると:

痴・田蔵田。
麝香鹿(じゃこうじか)に似た獣で、人が狩るとき、飛び出してきて殺されるという)自分に関係のないことで愚かにも死ぬ者。ばかもの。うつけもの。

さらに “たくらだ” の文例として、『御伽草子集 』の中の 『ものくさ太郎』があげられていた。

ということは、私はこの言葉を見たことがなかったのではなく、 忘れていただけらしい(汗)。 さっそく本棚から引っ張り出して再読した。

『ものくさ太郎』 あらすじ

あるところに、ものくさ太郎ひぢかす という名前の、大変な不精者がいた。何もせずに一日中ごろごろ寝たまま。働かないから食べ物さえない。

ひもじかろううと饅頭をくれた人がいたが、その饅頭がコロコロと道に転がってしまった。立ち上がって拾いに行くのも面倒で、そのまま誰かが来るのを待つ。待つこと三日、やっと通りかかった男に 「そこの饅頭を拾ってくれ」 と頼むと、その男は地頭だった。地頭はものくさ太郎に興味を持ち、 「自分の領地の中に生まれたのも縁」 と、村人達に養ってやれと命じる。村人達は納得いかないものの、地頭の命令とあれば仕方ない、食事を運んで三年間も養う。

この村に “長夫ながふ” が命じられた。都へ上ってご奉公する役である。村人達は、三年も養った恩返しに長夫を引き受けてくれと頼む。ついでに都で妻を娶ってくれば良いと入れ知恵する。

ものくさ太郎、都では普通の男よりかいがいしく働く。長夫の期間が終わって、いざ村に帰ろうとするが、まだ妻を見つけていない。宿の亭主に 「妻となってくれる女を紹介してくれ」 というと、亭主は、 「遊女でも相手にしてろ」 という。「遊女とは何ですか」 とものくさ太郎。 「金を払って買う女さ」 と亭主。「では、帰りの旅費にするつもりだったお金を出しますから、探してきてください」 とものくさ太郎。すると

『宿の亭主は、これを聞き、さてもさても、これほどのたくらだはなしと思ひて、また言ふやうは・・・』

宿の亭主はこれを聞いて、まったくこれほどの馬鹿者はいないと思って、また言う。「それなら辻取りでもしろ」 気に入った女を誘拐してものにしちゃえ、ということだ。

馬鹿正直なものくさ太郎はわかりましたと辻取りに出かける。気に入った女に、必死に言い寄る。ストーカー行為そのものだが、力づくで連れ去らなかった点は褒めるべき。意外にも、ものくさ太郎には、和歌の才があった。風呂に入れたら玉のような美男子だった。しかも素性を調べさせたら、天皇家の末裔だった。

かくて、ものくさ太郎は、美しい妻を娶り、屋敷を建てて、領主となった。恩返しも忘れなかった。情け深い地頭は昇進させてあげ、村人達には土地をわけ与えた。穏やかな良い政治を行ったので、神仏に守られ、120歳まで長生きして、多くの子供と財産に恵まれた。

めでたしめでたし。

猫は完全室内飼いで!

現在、日本では、猫は「完全室内飼い」こそ、愛情も常識もある飼い方として勧められている。

もちろん、日本の法律でも推奨されている。昔のような外出自由な飼い方はあらためるべき時代なのである。

今は、猫が隣の敷地内を歩いていたら、たくらだ(=愚か)なのは、猫ではなく、飼い主である人間の方だ。

猫の肉球

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