猫の鼻先の物を鼠が狙う/猫の額の物を鼠の窺う
ねこのはなさきのものをねずみがねらう
ねこのひたいのものをねずみのうかがう
以下の「虎ことわざ・四字熟語」も同じ意味です
虎髭を埒す(虎の髭を編む / 虎の髭を捻る/虎の髭を引く)
こしゅをらっす(とらのひげをあむ / とらのひげをひねる/とらのひげをひく)
虎の尾を踏む(竜の髭を撫で虎の尾を踏む)
とらのおをふむ(りゅうのひげをなでとらのおをふむ)
虎尾春氷
こびしゅんぴょう
虎の口へ手を入れる
とらのくちへてをいれる
虎穴を探る
こけつをさぐる
【意味】
猫の目の前にある物を鼠が取るのは命がけである。 髭を撫でれば虎や竜が怒り、 その尾を踏めば虎が怒る。 春の氷に乗るのは危険だ。
非常な危険を犯すたとえ。
無謀極まる行動に出るたとえ。
また、不可能なことをしたり、大それた望みを持ったりするたとえ。
ただし、この場合、全然危険は伴いません。 人は猫に大甘だから (笑)。
【類】
竜の頷の珠を取る りゅうのあぎとのたまをとる
鷲の巣を鼠が狙う わしのすをねずみがねらう
【参考文献】
『成語林』旺文社、『広辞苑』岩波書店、『大漢語林』大修館書店、『四字熟語の辞典』三省堂、ほか。参考文献の全リストはこちら
【猫的解釈】
これも、危険は伴いません。大人猫は子猫に甘い。
【雑学】
猫は鼻先のものは見にくい
猫の眼は、鼻から15cm以上離れた物体であれば、網膜に焦点を結ぶことが出来る構造になっている。
逆に言えば、鼻先から15cm以内のものは はっきりとは見えないということ。
これは、ヒトなら若齢者は目の前10cmほどで焦点を結べるので、ヒトよりは若干劣るが、犬の1mよりはずっと勝れている。
しかし猫がヒトより有利なのは、ヒトより鼻が効く上、ヒゲという便利なものがあること。
ヒトなら唇がぶつかるまでわからなかったりするが、 猫はヒゲで感知できる。
一方、水晶体の屈折率をもっとも低くさせた場合 (つまり、ぼんやりと遠くを見ている状態ね)、 網膜は6m以上離れたところにある物体に焦点を結ぶような構造になっているそうだ。
また、猫は立体視や動体視力もすぐれている。
さらに、聴覚も人間よりずっとすぐれているので、 天井近くにいる小さな羽虫に気付いて目で追ったりするが、人間は羽虫に気がつかず、「猫が何もない壁を見つめている、気持ち悪い」なんて言ったりする。
猫の髭を囓り取って巣材にしたシマリス
管理人宅で実際にあった話。
シマリスが、ケージの金網の隙間から猫の髭をたぐり寄せ、鋭い門歯でかみ切って、巣にもっていった。 届く範囲のヒゲを全部かみ切ってしまうと、つぎは猫の被毛も引きちぎって巣材に運んだ・・・!
その間、我が家の呑気猫トロは、ぼーっとしていただけ。
猫にすっかり馴れてしまった飼いシマリスと、 人工保育で育てられた呑気な飼い猫ならではの話である。
*こちらにもう少し詳しく書いています、よろしければどうぞ。 下の方に、ヒゲの話があります。
【文例】
曲亭馬琴(1767-1848年)『南総里見八犬伝』
「そは何ほどのことやはある。なまじいに虎の髭を引く、安西・麻呂等にあらざりせば、民を劫(おびやか)して物を奪ふ、山賊等にぞあらんずらん。(後略)」
【口語訳】
岩波文庫『南総里見八犬伝(一)』巻之三 第五回 ISBN:9784003022412 page83
「それがどれほどのことだろう。なまじ虎の髭を引く(無謀なことをしようとする)安西氏や麻呂氏でなければ、民衆を脅かして物を奪う山賊とかだろう」
「(前略)百騎にあまりし城兵だも、みな逃げ足は速かりしに、汝一人ンかへし来て、虎髭(こぜん)をひねるは殊勝なり。名告れ、聞かん」
【口語訳】
岩波文庫『南総里見八犬伝(三)』第五輯 巻之三 第四十五回 ISBN:97840030224369 page102
「百騎以上もいた城兵だって、皆、逃げ足は速かったのに、お前ひとり戻ってきて、虎髭をひねろうとするとは、たいした奴だな。名乗れ、聞いてやろう」