苛政は虎よりも猛し

かせいはとらよりもたけし

【意味】

「苛政」とは、租税を厳しく取り立てる政治のこと。 むごい政治は、人を食う虎よりも恐ろしがられる。 過酷な政治を戒めるたとえ。

【参考文献】

成語林』旺文社、『広辞苑』岩波書店、『大漢語林』大修館書店、『四字熟語の辞典』三省堂、ほか。参考文献の全リストはこちら

【猫的解釈】

茶トラ猫

【雑学】

出典

『礼記(らいき)』壇弓(だんぐう)・下

孔子が弟子を連れて泰山(=山東省にある山)のふもとを通ったとき、墓の前で婦人が泣いていて哀れなので、そのわけを尋ねると、「以前、私の舅が虎に食い殺され、私の夫もまた虎に殺され、今また息子が同じように死んだのです。」という。孔子が「では、なぜこんな危険な土地を離れないのですか」と問い返すと、婦人は「この土地には厳しい政治がないからです」と答えた。これを聞いた孔子が弟子達を教え諭した言葉。
(『成語林―故事ことわざ慣用句 』より引用)

白黒猫

人は虎よりも猛し

『虎が消える日』

アイヴス著 『虎が消える日』 からの引用↓を読んで欲しい。

下で、質問しているのは著者である。 答えているのは、インドの密林を毎日、自分の足で歩き回って、 野生動物の現地調査をしている人物である。

「そうすると、世界全体で虎の総数はどのくらいになります?六千から九千頭ほどだとなにかで読んだことがありますが、それも現実的な数字ではないんでしょうか?」

「第二次世界大戦の戦前からでも、世界中の野生の虎が合わせて九千に達したことはないでしょうね」

「では、正確な数はどのくらいだと思います?」

「現在地球上に生息する虎が二千頭以上ということはあり得ないでしょうね。千五百に近い数字かもしれない」

「公表されている低い方の数字の四分の一ですか」

「ええ」

私はしばし頭を巡らした。「つまり、どういうことになるんです?将来的には?」

「私の見積もりが完全に間違っていたとしても、これから十年のうちに虎の数が半分になるのは確かでしょう。そしてまた十年で半分、というふうに減って行くんです」

「とすると、いつぐらいに事実上の絶滅ということになります?」

「まあ、何につけ、最後の一頭が永遠に姿を消したなんてことはみな認めたがらないものです。しかし、あなたのおっしゃる虎の〈事実上の絶滅〉は、これから二十五年から三十年のあいだには現実のものになると思いますよ。遅くても二〇二五年までにはね。が、私の言葉を誤解してもらっては困ります。そのときになってもあちこちに多少は生き残りがいるかもしれませんから。といっても、ほんの少数で長くは生き延びられないでしょうが」

この本は、、1986年から1990年にかけて、じっさいに起こった出来事を記録した本である。 つまり、上記は20年ほど前の話。 その後、トラが劇的に増えたなんて話はどこにも聞かない。

トラがかくも減少した原因は、もちろん、人間である。

怨みつのって人肉を喰う?

ヒトの恐ろしさ、その2。

大長編『南総里見八犬伝』 (曲亭馬琴、1767-1848年)の終盤近く「 第百七十八回上 」に、こんな描写がある。

馭蘭二・谷中二・専作はいずれも百姓たち(文中では「荘客」と漢字表記)を、まさに「苛政」で苦しめた男たちだ。里見軍の八犬士が彼らを戦で破り、百姓たちに怨みを晴らさせてやろうと、三人を引き渡す。百姓どもは大喜び、彼らを切り刻んだだけでは飽き足らず、中にはその肉を食ったものまでいたという。

随即(すなはち)馭蘭二(ぎょらんじ)・谷中二(やちうじ)・専作(せんさく)を、牢舎(ひとや)より出させて、其(その)荘客(ひゃくせう)らに掌(と)らするに、検使(けみし)の士卒をさへ遣ししかば、大家(みなみな)都(すべ)て歓び勇みて、即(すなはち)馭蘭二・谷中二・専作を、受掌(うけと)りつひき立て、やがて城外に牽出(ひきいだ)して、其罪(そのつみ)を責罵(せめののし)りて、馭蘭二・谷中二・専作を、一個々々(ひとりひとり)に誅(ちゅう)するに、先(まづ)手を斫落(きりおと)し、足を斫落し、胸を劈(つんざ)き、大小腸を裂出(さきいだ)し、竟(つひ)に首を撃落(うちおと)すに、猶(なほ)怨(うらみ)尽ざる荘客(ひゃくせう)の、悍(たけ)く壮(さかり)なる者毎(ものども)は、其(その)宍(ししむら)を啖(くら)ふもありけり。

第九輯 巻之四十七 上 第百七十八回上 ISBN:9784003022504 page72

馬琴はさらっと「其宍を啖ふもありけり。」の数語で書き流しているけど、これって凄まじくないですか?江戸時代までの大飢饉では、食べるものが無くなると終には餓死者の人肉まで食ったという話はよく聞くし、人間とて生物である以上、そのくらいのことはあって当然だったろうとは思うものの、・・・怨み故にその人肉を喰らうとは!しかも馬琴の書き方があまりにさりげない。せめて「宍を啖う者さえいたらしい、なんて恐ろしいことだ」みたいに書いてあれば、戦ともなれば狂人も現れるもんだよね、とか思うのだが、この書き方・・・当時の人々の意識の根底には、いよいよどうしてもという時には人とは人肉をも喰うものだ、という認識が、現代人よりもはっきりと形作られていたのだろうかと勘繰ってしまうのである。

文例

曲亭馬琴(1767-1848年)『南総里見八犬伝

若們(なんじら)も亦これを知るや、苛政は、虎より猛かり。定正(さだまさ)累世(るいせい)の名族として、国を治る所以(ゆえん)を知らず。

第九輯 巻之二 下套 第九十四回 ISBN:4003022459 page263

有司に命じて、猛可(にはか)に余市(よいち)を召捕(めしとり)て、罪ならぬ罪を唱えて、斬首の刑(しおき)に行ひける。現(げに)苛政は、虎より酷(はなはだ)しとぞいふなる、古人の格言思ふべし。

第九輯 巻之二十七 第百四十三回 ISBN:9784003022481 page175

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